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世界各地から報告 現地レポート

2016/2/5

世界に蔓延する住血吸虫症 ~ハチドリのひとしずく~

濱野教授:中央
レポーターProfile
濱野真二郎
長崎大学熱帯医学研究所寄生虫分野 教授

 住血吸虫症はかつて日本でも猛威を振るっていた寄生虫疾患である。本疾患は、1904年に桂田富士郎によって病原体が発見・新種記載されるまで、原因不明の死に至る病として恐れられた。その後、宮入慶之助による中間宿主ミヤイリガイの発見を契機に住血吸虫のライフサイクルの全容が解明され、それらの知見を科学的基盤とし、各方面にわたる多大なる努力の結果、日本における流行は1970年代に終息した。しかしながら、世界78カ国では今なお2.6億人以上の人々が住血吸虫に罹患しており、国際的な対策が喫緊の課題である。

 長崎大学はケニア共和国・ヴィクトリア湖沿岸のビタ地区にフィールド拠点を有する。そこで子供を対象に糞便中に排泄される住血吸虫卵の検出を試みたところ、ある小学校では4年生のほぼ全てがマンソン住血吸虫に感染していた。この地域の学童は75%の感染率を示し、また就学前児童も50%の感染率を示した。同地域では、マラリア、結核、エイズも蔓延しており、エイズによって両親を亡くした孤児も多い。子供たちの未来を考えるときに状況は極めて深刻である。

 エーザイがリンパ系フィラリア症の特効薬であるジエチルカルバマジンをWHOの地球規模での制圧プログラムに無償提供しているように、住血吸虫症の特効薬も他の製薬会社によって蔓延国へ無償提供されている。しかしながら、現地での現状認識に始まり、薬剤・ワクチン・診断キットの開発・評価を経て生産されるツールが患者さんのもとに届けられるためには多くの障壁が存在することも目の当たりにしてきた。医薬品へのアクセス(ATM)改善のためには各国の更なる真剣な取り組みが不可欠であり、産官学パートナーシップのより一層の深化が求められる。

 貧困に喘ぐ熱帯・亜熱帯地域に蔓延するNTDs (Neglected Tropical Diseases) の多くは寄生虫による感染症である。寄生虫疾患の特徴は、長きにわたって人々の健康を損ない、概して死亡率は低いものの,強い病苦と甚大な社会経済的な損失を生み出すことにある。保健・介護サービスが極めて限定的な状態で「生きて経験する病苦」は恵まれた環境下での罹患と大きく異なることは想像に難くない。子供たちが未来に希望をもって生きていくことが出来るように、エクアドルの先住民に伝わる民話『ハチドリのひとしずく』を心に刻みたい。

 「世界は、私たちひとりひとりからできている。だから、あなたや私がちょっと変われば、世界はやっぱり、ほんのちょっぴり変わっていくの」 (辻信一監修、光文社刊 『ハチドリのひとしずく』 より)

ヴィクトリア湖沿岸ビタ地区の風景
ビタ地区の小学校にて
 
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