リンパ系フィラリア症

2022年12月更新

フィラリアという寄生虫(蠕虫(ぜんちゅう))を病原体とし、蚊に媒介されて人に感染する病気です。感染するとリンパ系に大きなダメージを与え、足が象のように大きく腫れる象皮病などの身体障害を発症することがあります。リンパ系フィラリア症は熱帯・亜熱帯の47カ国で蔓延しています。世界で5100万人が感染しており、8.6億人が感染のリスクにさらされていると推定されています。

感染原因

病原体:寄生虫のフィラリア(バンクロフト糸状虫、マレー糸状虫、チモール糸状虫)
媒介昆虫:主に蚊(ハマダラカ属、イエカ属、ヤブカ属など)

リンパ系フィラリア症は、小さな寄生虫が蚊に媒介されて人のリンパ系に寄生することで発症します。原因となる寄生虫は3種類ありますが、リンパ系フィラリア症の90~95%がバンクロフト糸状虫の感染によって引き起こされると言われています。
フィラリアの幼虫を体内に持つ蚊が人を刺すと、蚊の体内の幼虫が人に侵入し、感染します。その後、仔虫を持つ幼虫は人の体内でリンパ管に移動して成虫となり、リンパ系に大きなダメージを与えます。成虫は人の体内で何千匹というミクロフィラリアと呼ばれる仔虫を生み出します。そして感染した人を蚊が吸血することで蚊の体内にミクロフィラリアが取り込まれ、さらに感染が広がるといったサイクルを生み出します。感染者の多くは子供時代に感染して、大人になってから発症する傾向にあります。

感染経路図

参照情報(2022年12月19日最終アクセス)

U.S. Centers for Disease Control and Prevention, Parasites - Lymphatic Filariasis
http://www.cdc.gov/parasites/lymphaticfilariasis/biology_w_bancrofti.html

症状

感染すると、急性期の症状として悪寒戦慄を伴う発熱があります。しかし、感染初期はあまり症状がないため、多くの人は感染に気付きません。その後、成人になってから、リンパ管炎、リンパ節炎を伴う発熱を繰り返すうちにリンパ液の還流障害をきたすようになります。慢性状態に移行すると、四肢の浮腫(組織腫脹)を伴う象皮病(皮膚や組織の肥厚)、陰嚢水腫といった諸症状を発症します。 激しい痛みや恒久的な障害だけでなく、外観が損なわれることによる社会的偏見を引き起こします。その結果、患者様は精神的、社会的、経済的損失を被ることになります。

治療方法

診断方法

リンパ系フィラリア症の感染の診断方法には、2つの方法があります。
一つは、顕微鏡で血液中のミクロフィラリアの存在を確認することです。ミクロフィラリアは、一般には夜間に末梢血管に移動する習性があるため、採血はこの出現時間に合わせて行う必要があります。
もう一つは血清検査(血清中の抗体値を調べる)です。いずれの検査でも、感染後何年も経ってリンパ浮腫を発症した人でも陰性となるケースが少なくないため、診断には困難が伴います。

治療方法

治療薬・駆虫薬には、ジエチルカルバマジン(DEC)、アルベンダゾール、イベルメクチンがあり、それらの投薬で治療を行います。
また、リンパ浮腫や象皮病はフィラリアを駆除した後も悪化しつづけることがあります。悪化させないための基本対策として、患部を清潔に保つことや、リンパ液の流れを改善するために運動を行うことなどがあります。

予防方法

リンパ系フィラリア症の予防対策としてもっとも重要なのは、蚊に刺されないようにすることです。長そで、長ズボンを着用し、露出した肌には防蚊剤を塗布することが必要です。また、睡眠時には蚊帳を使用することも有効です。一旦リンパ系フィラリア症にかかると、免疫機能の低下によりほかの感染症にもかかりやすくなるため、衛生的な生活環境を整えることも重要です。
世界保健機関(WHO)は、リンパ系フィラリア症の蔓延を防ぐために、DECとアルベンダゾールの2剤、または、アルベンダゾールとイベルメクチンの2剤を年1回、4~6年間継続して感染地域で集団投薬を行うことを推奨しています。蚊の媒介によって人から人へ感染するため、コミュニティ全体で制圧する必要があるためです。最近、上記3つの薬剤の併用により、通常の2剤投与では数年かかる感染者の血液中ミクロフィラリア除去を、数週間で安全にほぼ完全に除去できることが示されています。リンパ系フィラリア症制圧活動の加速をめざし、WHOはオンコセルカ(河川盲目症)が蔓延していない地域において3剤投与を推奨しています。 (河川盲目症がリンパ系フィラリア症と共に蔓延している地域においては、DECが河川盲目症に特有の副作用を発生させる懸念があるため、3剤投与はできません)。

感染リスクのある地域

リンパ系フィラリア症は、アジア、アフリカ、西太平洋、カリブ海と南アメリカの一部の熱帯・亜熱帯に属する地域にまたがる47カ国でみられます。

推定感染者数

世界で8.6億人がリンパ系フィラリア症の感染リスクにさらされており、2018年時点で5100万人以上がすでに感染しています。
また、リンパ系フィラリア症によって2500万人以上の男性が生殖器疾患を発症し、1500万人以上がリンパ浮腫を患っています。

推定死亡者数

リンパ系フィラリア症で死亡する例はほとんどありませんが、免疫力が低下するためほかの病気を発症しやすくなることがあります。

 

参照情報(2022年12月19日最終アクセス)

WHO- Lymphatic filariasis
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/lymphatic-filariasis

CDC-Parasites - Lymphatic Filariasis
https://www.cdc.gov/parasites/lymphaticfilariasis/index.html

厚生労働省検疫所FORTH リンパ系フィラリア症について (ファクトシート)
https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2017/03231141.html

監修
慶應義塾大学 名誉教授 竹内 勤
聖路加国際大学 名誉教授 遠藤 弘良