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社会問題でもある 顧みられない熱帯病について

河川盲目症

寄生蠕虫(ぜんちゅう)の回旋糸状虫を病原体とし黒バエ(ブユ)に媒介されて人に感染する感染症です。成虫は皮下にコブを作って寄生し、発症すると皮膚の激しい痒みなどを伴うことがあります。重症になると回旋糸状虫のミクロフィラリアが眼に集中し失明に至る眼障害を発症します。河川盲目症は、トラコーマと並び、世界上位の失明原因と言われています。

感染原因

病原体

寄生蠕虫の回旋糸状虫

<回旋糸状虫の顕微鏡写真 > CDC

媒介昆虫

黒バエ(ブユ)

<媒介昆虫の黒バエ>
National Museum of Health & Medicine

 河川盲目症は、回旋糸状虫という寄生蠕虫によって発症する寄生虫症です。回旋糸状虫のミクロフィラリアは、黒バエの吸血時に移動してその内部で感染幼虫にまで発育し、人がそれに繰り返し刺されることで感染します。河川盲目症という名称は、黒バエが流れの速い河川で繁殖し、それが原因で盲目になることに由来します。
 ミクロフィラリアは黒バエの体内で約2週間かけて人に感染できる状態(感染幼虫)に成長します。雌の黒バエが人を吸血した際、黒バエの頭部や口吻に移動した感染幼虫が人の体内に侵入します。人体に侵入した幼虫は3カ月から1年かけて成長します。雌の回旋糸状虫は成長すると皮膚表面近くに生息しますが、中には、筋肉や関節で生息するものもあります。

症状

 感染すると、多くの人は皮膚の激しい痒み、変色を伴う皮下結節、失明に至る眼障害などを発症します。これらは河川盲目症を診断する時の3大症状です。加えて、痛みはないもののリンパ節が腫脹することがあります。
 一方、感染しても幼虫は体内で成虫になるまでに最長で1年かかるため、初期症状が現れない人もいます。成虫は10〜15年という長期間生きつづけて、数百万というミクロフィラリアを産みます。症状の原因はミクロフィラリアが作り出しているため、多くの人々は感染初期には感染に気付きません。
 ミクロフィラリアが死ぬと、皮膚の痒みに加えて、激しい炎症や皮膚表面の色素変化を起こし「ヒョウ肌」と呼ばれる皮膚になります。これにより皮膚の弾力性が失われ、皮膚は「巻きたばこの巻紙」状になります。ミクロフィラリアが眼の中で死ぬと、初期は治療可能な角膜の病変となりますが、放置すればいずれ失明に至ります。視神経の炎症も発症することがあり、これも放置すると失明につながります。
 なお、河川盲目症は世界上位の「失明原因」として挙げられており、トラコーマとともに失明を招く感染症として知られています。

治療方法

診断方法

現在、下記のような診断方法があります。

皮膚サンプルの生検

 皮膚生検はもっとも一般的な診断方法です。皮膚のサンプルを1〜2mm採取し、生理食塩水に浸すといった方法でミクロフィラリアを発見することができます。精度を上げるために、身体の6カ所(腸骨稜、肩甲骨、下肢などの表皮)から皮膚サンプルを採取するのが一般的です。ミクロフィラリアが発見しにくい場合には、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法で診断をします。

抗体検査

 抗体検査は、発症初期でも感染確認がしやすい方法です。ただし、過去の感染と現在の感染を区別できないため、流行地域に生活している人よりは、訪問者の感染を確認するのに適しています。
 ただし、皮膚サンプル検査で陰性であるにも関わらず、臨床的には河川盲目症の感染が強く疑われる場合には、抗体検査の結果を一応の判断基準とします。もしこの抗体検査で陽性であれば、再度皮膚サンプル検査などの追加検査をする必要があります。

PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法

 幼虫が少なくて発見するのがむずかしい場合には、ミクロフィラリアの遺伝子をポリメラーゼ連鎖反応(以下PCR)法で検出し検査することが可能です。しかし、PCR検査は研究室で行うため、感染現場で容易に実施できるものではありません。

細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査

 眼の感染が疑われる場合は、細隙灯(さいげきとう)と呼ばれる拡大鏡を使い、帯状の光を目に当ててミクロフィラリアの有無を確認します。

 
治療方法

 河川盲目症の治療にはイベルメクチンおよびドキシサイクリンという経口薬を使用します。

イベルメクチン

 回旋糸状虫のミクロフィラリアを駆虫し、眼や肌の病変が現れるのを抑制します。イベルメクチンは1回の投薬でミクロフィラリアの数を大幅に減少させ、効果は1年以上継続します。一般的には病状が出ている期間は、3カ月または6カ月おきに1回の投薬を継続します。なお、イベルメクチンは成虫には効果がありません。

ドキシサイクリン

 回旋糸状虫の成虫の生存に寄与しているウォルバキアというリケッチア様の細菌に対して効果があります。ドキシサイクリンを6週間毎日継続して投薬することで、雌の成虫の60%以上が死滅します。治療後20カ月経過すると、雌の成虫全体の80〜90%を殺菌することができます。一方、ドキシサイクリンは、ミクロフィラリアには効果がありません。
 
  皮膚に結節ができている場合には、外科的処置で切除してから、成虫の有無を見ます。  

 

予防方法

 現在、感染を予防するためのワクチンや薬はないため、もっとも効果的な予防法は、黒バエが活動する日中に、噛まれないようにディート(DEET:ジエチルアミド)を含む殺虫剤を皮膚に直接塗付することです。加えて、長そで・長ズボンを着用し、ペルメトリン(殺虫剤)処理をした衣類を着ることが重要です。

感染リスクのある地域

 サハラ以南のアフリカの熱帯気候の農業を中心とする地域で多く見られます。2017年のWHOの発表によると感染者の99%がアフリカ31カ国に集中しています。残り1%はイエメン、および、ラテンアメリカ(ブラジル、ベネズエラ)の主にヤノマミ族で確認されています。

推定感染者数

 2013年のCDCの発表によると、世界中で1億2300万人が感染のリスクにさらされており、2500万人が感染していると推定されます。

推定死亡者数

 河川盲目症を直接の原因として死に至ることはほぼありませんが、眼に感染すると失明に至ることがあります。

製薬会社・NGOなどの取り組み事例

 1974年に、様々な国際機関によるパートナーシップ(WHO(世界保健機関)、世界銀行、UNDP(国連開発計画)、FAO(国連食糧農業機関)などで構成)のもとでオンコセルカ症(河川盲目症の別名)制御プログラム(OCP)がスタートし、西アフリカの河川盲目症制圧活動が始まりました。当初は殺虫剤の空中散布が主な活動でしたが、1987年からはイベルメクチンの集団投薬もスタートしています。
 この活動は素晴らしい成果を挙げ、多くの河川盲目症患者を救いました。具体的には、4000万人を治療し、60万人が失明を未然に防ぐことができました。また、1800万人の子供たちがこの感染のリスクにさらされることなく誕生しました。さらに2500万ヘクタールの耕作放棄地で再び農業ができるようになり、この耕作地で1700万人分の食糧が生産されています。OCPはプログラムへの参加国(内乱中のシエラレオネを除く)の感染伝播の終息を確認し、2002年に解散しました。
 続いて、1995年には世界銀行の経済的支援のもと、WHOでアフリカオンコセルカ症対策計画(APOC)が発足しました。これは、上記のプログラムでカバーされた地域以外のアフリカの地域に対して、ベクターコントロール(病原体を媒介するブユの駆除)を環境の面から支えるとともに、イベルメクチンの集団投薬を実施するものです。APOCは2015年まで活動が行われ、2015年にはアフリカで1億1400万人以上に集団投与が実施されました。これは、全世界で治療を必要とする人々の約60%をカバーするものです。APOC以降、2016年には、河川盲目症を含む新たなアフリカにおける顧みられない熱帯病制圧プログラム(ESPEN)が開始されました。
 ラテンアメリカでもオンコセルカ症制圧プログラム(OEPA)が発足し、1992年にイベルメクチンの集団投薬が始まりました。2011年には、当時の13の流行地域のうち10の地域で伝播が止まりました。
 WHOは中東地域のイエメンでも、世界銀行や保健省と共同して河川盲目症制圧プログラムを展開しています。

米国メルク社(MSD)

 WHOとのパートナーシップのもと1987年よりイベルメクチンの無償提供を行っています。

参照情報
WHO- Neglected Tropical Diseases, accessed March 19, 2014,
http://www.who.int/neglected_diseases/mediacentre/factsheet/en/
CDC- Neglected Tropical Diseases, accessed March 19, 2014,
http://www.cdc.gov/globalhealth/ntd/diseases/