条虫症・嚢(のう)虫症

ラテンアメリカやアジアの不衛生な地域で、主に豚に寄生する有鉤条虫の幼虫(嚢虫)が人の臓器組織に寄生して起こる寄生虫症です。嚢虫は、筋肉、目、脳など体の様々な部位に寄生しますが、脳に寄生すると脳水腫などを引き起こし、死に至ることもあります。

感染原因

寄生蠕虫の有鉤条虫の幼虫である有鉤嚢虫を筋肉内などに持つ豚を、充分加熱しないで食べてしまうことで成虫が人の腸に感染し、そこで産卵することで、虫卵中の六鉤幼虫が腸管から組織に侵入し(自家感染)、嚢虫として種々の組織に寄生するためにおこる寄生虫症です。また、嚢虫症に感染した家族の便の中に含まれる有鉤条虫の卵を経口的に摂取して感染するケースもあります。有鉤嚢虫は、筋肉や体の様々な組織のほか、脳にも寄生します。

病原体:寄生蠕虫の有鉤条虫(ゆうこうじょうちゅう)の幼虫である有鉤嚢虫(ゆうこうのうちゅう)

中間宿主:豚

<豚に寄生した有鉤嚢虫の頭部> CDC

症状

嚢虫症では、通常は有鉤嚢虫が死ぬと発症します。そのため、感染後数カ月から数年間は、感染していても症状が出ない場合もあります。嚢虫が体のどの部位で死んだかによって下記のように症状は異なります。また、寄生部位などによっては空間占有性病変(SOL: Space Occupying Lesion) として圧迫症状をおこすこともあります。

嚢虫が筋肉で死んだ場合

一般的に特に症状は現れません。ただし、皮下に腫瘤ができることがあります。

嚢虫が眼球で死んだ場合

稀なケースではありますが、かすみ目や視覚障害が現れます。網膜が腫れたり、網膜剥離が起こることもあります。

嚢虫が脳や脊髄で死んだ場合

これは神経脳嚢虫症と呼ばれます。嚢虫が死んだ場所や死んだ嚢虫の数によって症状は異なりますが、いずれの場合でも発作や頭痛が起きます。加えて、周囲への注意散漫、平衡感覚の乱れ、脳水腫を起こすこともあります。神経脳嚢虫症になると、死に至ることもあります。嚢虫が死ななくとも、寄生数、部位によっては上記のように圧迫症状を呈することもあります。

治療方法

診断方法

一般的には、検便、血液検査、免疫学的検査や脳MRI・CTなどの複数の診断を行います。皮下腫瘤の有無も診断の指標となります。

治療方法

治療は、プラジカンテルとアルベンダゾールの2剤併用か、単剤で行います。同時に支持療法として、副腎皮質ホルモンのコルチコステロイドや抗てんかん薬を使用します。これらの治療で効果が現れない場合には、外科的処置で腫瘤を摘出する必要があります。
一方、感染箇所が1カ所のみの場合は治療しないケースもあります。嚢虫が死んで石灰化し、浮腫やその他の症状は消滅するためです。ただし、石灰化した胞嚢が時に発作の原因となるため、その場合は抗発作薬を使用します。

予防方法

嚢虫症の予防方法には下記のような対策があります。

  • 子供に感染予防のための手洗いの重要性を教えること
  • 豚肉は充分加熱して食べること
  • 手洗いに行った後やおむつを替えた後、また食品に触る前に石鹸をつけてお湯で手を洗うこと

感染リスクのある地域

ラテンアメリカ、アジア、アフリカの不衛生な地域で、かつ、豚を放し飼いにしている地域で多く見られます。

推定感染者数

有鉤嚢虫症に感染すると、てんかん等の神経学的症状が現れます。てんかん患者は世界で5000万人と推定されますが、そのうちの80%以上は、人や豚において有鉤条虫の感染が流行している低中所得国々に住んでおり、その関連性を強く示唆しています。

推定死亡者数

嚢虫症を原因とする死亡データはほとんど存在しませんが、アメリカでは、1990年から2002年までの12年間で嚢虫症による死亡者は221件報告されました。その多くはラテンアメリカ系移民でした。

参照情報:

WHO- Neglected Tropical Diseases, accessed March 19, 2014,
http://www.who.int/neglected_diseases/mediacentre/factsheet/en/

CDC- Neglected Tropical Diseases, accessed March 19, 2014,
http://www.cdc.gov/globalhealth/ntd/diseases/

監修
慶應義塾大学 名誉教授 竹内 勤
聖路加国際大学 名誉教授 遠藤 弘良