マイセトーマ

2022年12月更新

(マイセトーマ患者の写真)CDC

マイセトーマ(菌腫)は進行性の皮下組織の慢性感染性疾患であり、患部としては足に多く見られますが、どの部位にも起こり得ます。多くの場合、原因となる細菌や真菌が傷口から皮下組織に侵入することで感染すると考えられています。マイセトーマについての記述は古くから見られますが、正式な論文報告は19世紀半ばにインドのMaduraという町における患者に関するもので、そのため当初Madura foot病と呼ばれていました。マイセトーマの患者は多くが発展途上国の特に20代から40代の男性であり、中でも肉体労働者、例えば農夫などに多く見られます。
マイセトーマは2016年5月に開催された世界保健総会(World Health Assembly)において、18番目のNTDとして公式リストに収載されました。

感染原因

マイセトーマは細菌あるいは真菌の感染によるもので、細菌による場合をアクチノマイセトーマ(Actinomycetoma)、真菌による場合をユーマイセトーマ(Eumycetoma)と区別しています。マイセトーマを引き起こす原因菌として、いずれの場合も複数の種類が報告されています。細菌としてはNocardia brasiliensis, Actinomadura madurae及びStreptomyces somaliensisなどが知られ、一方で真菌としては20種あまりある中でMadurella mycetomatisが最も多く見られます。感染は小さな外傷やトゲなどによる刺し傷から原因菌が侵入することで生じると考えられており、マイセトーマの罹患者の多くが裸足で歩く肉体労働者であることがそれを裏付けています。なお、人から人への感染はないと言われています。

病原体:細菌(アクチノマイセトーマの場合)、真菌(ユーマイセトーマの場合)

<細菌Nocardia brasiliensisの顕微鏡写真>CDC
<真菌 Madurella mycetomatisの顕微鏡写真>CDC

宿主:感染源となる特定の宿主や保有動物は知られていない

症状

マイセトーマは一般的にはゆっくりと進行し、痛みのない皮下の病巣が徐々に大きくなります。感染菌である細菌あるいは真菌の粒子状の塊を含む滲出液がみられるという特徴を示します。典型的には初発感染部位が足の場合が最も多いものの他の四肢にも拡大することがあります。未治療のまま放置すると身体障害、外観の変形及びそれに伴う社会的差別などを招き、傷口からの二次感染が起こりそれが敗血症に至れば生命を失う場合もあります。蔓延地域においては保健医療インフラ、健康教育が乏しいことに加えて、痛みがなくゆっくりと進行する症状のために、多くの患者は病態が非常に悪化した状態になって初めて病院を訪れます。その段階では外科的に患部を切除あるいは手足を切断することが唯一の治療法です。

診断方法

マイセトーマの診断は、生検組織あるいは患部から分泌された膿中の原因菌を検出することで行います。菌の粒子状の塊を顕微鏡で観察することも一つの方法ですが、必ずその菌を培養し原因菌を特定することが重要です。その他にもPCRや各種イメージング技術を使用することも可能ですが、蔓延地域では通常それらの技術は使えません。現地で簡便にできる診断法は未だにないのが実情です。

治療方法

外科手術による患部切除以外の、薬物による治療法は、原因菌の種類によって異なります。細菌によるアクチノマイセトーマの場合、抗生物質が有効で、90%以上の患者が治癒可能とされています。一方、真菌によるユーマイセトーマの場合、アゾール系抗真菌剤が治療に用いられていますが、約25-35%の治癒率とされ、再発率が高いことが知られています。そのため、ユーマイセトーマの治療には抗真菌剤の長期投与(12ヶ月以上)と外科手術が併用されます。コスト負担の問題もあり、50%以上の患者は治療が未完了となり、再発そして切除や切断手術に至るという事態を招いています。現在、ユーマイセトーマの新薬の臨床試験が進行中です。

予防方法

マイセトーマを制御あるいは予防するための有効な取組みはまだない状況です。感染を完全に予防することは難しいといえますが、蔓延地域に居住する人には裸足で歩かないよう伝えることも選択肢の一つです。

感染リスクのある地域

マイセトーマの原因菌は世界中に分布していますが、特に蔓延しているのは、熱帯あるいは亜熱帯の「マイセトーマベルト」と呼ばれる地域帯で、ベネズエラ、メキシコ、インド、イエメン、エチオピア、ソマリア、スーダン、チャド、セネガル、モーリタニアのなどの国が含まれます。

推定患者数

マイセトーマは法律によって報告が義務付けられている疾病ではなく、患者の監視体制も取られていないために、患者数、発生数ともに把握できていません。但し、2013年に報告された論文において、1956年以降の50の信頼できる論文から患者数を集計したところ8,763例であり、その約75%はメキシコ、スーダン、インドに集中しているとされています。しかしながら、この集計は、国ごとに一つの病院を訪れた患者数のみをカウントしているため、実際の患者数はそれより遥かに多いことが推測されます。また、その後の論文報告では、2017年までの累積患者報告数は17,607件とされています(Medical Mycology, 2018, 56, S153–S164)。

推定死亡者数

マイセトーマによる死者数は推定されていません。

参照情報(2022年12月19日最終アクセス)

WHO- Mycetoma
http://www.who.int/buruli/mycetoma/en/

ISNTD Disease Brief, 'Mycetoma: The case for a new entrant to the WHO's list of Neglected Tropical Disease'; Mark Clark (April 2016)

監修
慶應義塾大学 名誉教授 竹内 勤
聖路加国際大学 名誉教授 遠藤 弘良