リーシュマニア症

寄生原虫の一種のリーシュマニアが非常に小さなサシチョウバエ類に媒介されて感染する寄生虫症です。熱帯・亜熱帯・南ヨーロッパなど90カ国以上の地方で広く見られます。約1200万人の感染者がおり、毎年90〜130万人が新たに感染していると推定されています。

<皮膚リーシュマニア症の患者の様子> CDC

感染原因

リーシュマニア原虫に感染した雌のサシチョウバエが動物や人の血を吸う際に、原虫が人に感染します。サシチョウバエに媒介されるもの以外に、注射針や輸血による感染や母子感染も報告されています。また、サシチョウバエがいない国や地域でも、流行地域に関連する人や物資の移動などにより感染することがあります。

病原体:寄生原虫のリーシュマニア原虫

<リーシュマニア原虫(プロマスチゴート)> CDC

媒介昆虫:サシチョウバエ

<サシチョウバエ類> CDC

参照情報:

U.S. Centers for Disease Control and Prevention,
"Parasites - Leishmaniasis." Accessed March 19, 2014,
http://www.cdc.gov/parasites/leishmaniasis/biology.html

病原体のリーシュマニアは地域によって種類が異なります。また、原虫の種類によって発症した場合の症状が「皮膚リーシュマニア症」、「内臓リーシュマニア症」、「粘膜皮膚リーシュマニア症」の3つに分かれます。

症状

リーシュマニア症には、主に先に述べた症状が異なる3つの病態があります。もっとも多く見られるのは皮膚リーシュマニア症です。感染しても症状が出ないこともあれば、死に至ることもあり、症状の現れ方は千差万別です。

皮膚リーシュマニア症

もっとも一般的なリーシュマニア症です。皮膚のマクロファージに原虫が感染すると、感染部の皮膚に数週間から数カ月で複数の腫れ物やこぶができます。徐々に大きくなり最終的には潰瘍となります。潰瘍は痛みを伴い、患部が他の細菌に感染することや、関節近くにできると強い痛みを伴う場合もあります。通常このような症状は治療しなくても自然に消滅しますが、自然消滅には数カ月から数年かかる上、傷跡が残ってしまいます。

内臓リーシュマニア症

臓器マクロファージの感染を原因として、数カ月から数年で症状が現れます。主な症状として、熱、体重減少、血液細胞の減少などが見られます。さらに脾臓や肝臓の腫脹がおこり、造血臓器も冒され、放置すると数週間から数年で死亡します。

粘膜皮膚リーシュマニア症

特定のタイプの原虫(主にビアーニア亜属のリーシュマニア)感染により発症した皮膚リーシュマニア症から感染マクロファージが、鼻や口腔内、咽頭に転移することで発症します。皮膚リーシュマニア症を放置し、治療が不十分な場合には、何年も経ってから粘膜皮膚リーシュマニア症を発症します。初期症状はしつこい鼻づまりや鼻血、口の中や咽頭の違和感程度ですが、放置すると、外観を損なう激しい粘膜皮膚の破壊を招くこともあります。

治療方法

診断方法

リーシュマニア症の兆候がある場合には、リーシュマニアの報告された地域に滞在したことがあるかの問診から始まり、各症状に応じた診断を行います。

皮膚リーシュマニア症の場合

皮膚の患部を採取し、原虫の有無を染色標本などで確認します。

内臓リーシュマニア症

骨髄液、肝臓、またはそれらの培養物中に原虫の有無を確認します。

治療方法

内臓リーシュマニア症および粘膜皮膚リーシュマニア症は必ず治療が必要です。皮膚リーシュマニア症は原則治療が必要ですが、薬剤投与をしなくてもよい場合もあります。また、患者の状態(妊婦/授乳の有無、子供、免疫不全の有無、合併症の有無など)、体の部位や、感染した原虫の種類によって治療法は異なります。

皮膚・粘膜皮膚リーシュマニア症

飲み薬による治療法

アゾール系抗真菌薬やミルテホシンといった薬剤がありますが、リーシュマニア原虫の種類によって効能は大きく異なります。

飲み薬以外の治療法

5価アンチモン剤、アムホテリシンBという薬剤が主に使用されており、点滴(静脈注射)または皮下注射で投薬する方法が一般的です。

その他の治療法

粘膜皮膚リーシュマニア症発症のリスクがない皮膚リーシュマニア症の場合は、液体窒素による凍結療法、高周波加熱による温熱療法も使われることがあります。

内臓リーシュマニア症

ミルテホシン、5価アンチモン剤、リポソーム封入アムホテリシンB、アムホテリシンBデオキシコール酸塩、硫酸パロモマイシン、ペンタミジンイセチオン酸塩といった薬剤があり、もっとも推奨される飲み薬がミルテホシンです。28日間、規定量を服用する処方がもっとも一般的です。ただし、妊婦はミルテホシンを服用できません。

予防方法

現在、感染を予防するためのワクチンや薬はないため、サシチョウバエに刺されないよう気をつけることが基本的な予防策です。しかし、サシチョウバエの大きさは蚊の約3分の1ととても小さく、羽音もしないため気付くことがむずかしいので、殺虫剤や殺虫剤を織り込んだ蚊帳の使用も推奨されています。人への安全性が高く、防虫効果が長持ちする殺虫剤練りこみ蚊帳として、住友化学の開発した蚊帳「オリセット®ネット」があります。

感染リスクのある地域

2013年にCDC(Centers for Disease Control and Prevention、アメリカ疾病予防管理センター)が発表したデータによると、熱帯・亜熱帯・南ヨーロッパなど90カ国以上の地方部で広く感染が見られます。具体的には、東半球と西半球の下記の諸国で感染リスクがあります。

【東半球】

アジア、中東、アフリカ(特に熱帯地域、北アフリカ)、南ヨーロッパ

  • なお、オーストラリアおよび太平洋諸国では感染が見られません。

【西半球】

メキシコ、中南米

  • なお、チリおよびウルグアイでは感染が見られません。

推定感染者数

約1200万人の感染者がおり、毎年90〜130万人が新たに感染していると推定されています。

推定死亡者数

年間2〜3万人がリーシュマニア症で死亡していると推定されています。とりわけ、内臓リーシュマニア症は、治療せず放置すれば2年以内に死亡すると言われています。

参照情報:

WHO- Neglected Tropical Diseases, accessed April 2, 2015,
http://www.who.int/neglected_diseases/mediacentre/factsheet/en/

CDC- Neglected Tropical Diseases, accessed April 2, 2015,
http://www.cdc.gov/globalhealth/ntd/diseases/

監修
慶應義塾大学 名誉教授 竹内 勤
聖路加国際大学 名誉教授 遠藤 弘良