食物媒介吸虫症

肝吸虫などの吸虫類の幼虫(メタセルカリア)を有している淡水魚や甲殻類などを生食することにより感染し、発熱、腹痛などを引き起こす病気です。主に4種類の吸虫が存在し、寄生する吸虫の種類と、その成虫が寄生する臓器の部位により、症状が異なります。東南アジアや南米を中心に、世界70カ国以上から感染が報告されています。

感染原因

食物媒介吸虫類感染症は、寄生蠕虫の吸虫(口部、腹部に吸盤があり消化管はあるが、肛門を有しない)の幼虫が寄生した生魚や甲殻類、野菜などを食べることで感染する、人獣共通感染症(動物から人に、人から動物に伝播するが、成虫が人に直接感染することはない)です。
もっとも一般的な吸虫は4種類(肝吸虫、タイ肝吸虫、肝蛭(かんてつ)、肺吸虫)です。いずれの吸虫も、最初は淡水巻貝に寄生します。そこから寄生虫ごとに異なる発育経路をたどります。肝吸虫とタイ肝吸虫は第二中間宿主として淡水魚に、肺吸虫は甲殻類に寄生します。ただし、肝蛭の場合、幼虫は魚などの第二中間宿主は必要とせず、水草、牧草などに付着して発育し、感染能力を持つようになります。
そして、これらの吸虫は最終的に哺乳類に寄生します。人へは、第二中間宿主(淡水魚や甲殻類、肝蛭の場合は、幼虫が付着した水生植物など)を食べることで感染します。

病原体:寄生蠕虫の吸虫

中間宿主:最初に淡水巻貝が第一中間宿主となり、淡水魚・甲殻類などが第二中間宿主となる

症状

感染初期や感染量が少ない場合には自覚症状がないため、気付かないことがあります。ただし、感染量が多いと特に腹部に強い痛みを感じることがあります。腹部の痛みは、肝蛭が感染した場合にしばしば見られ、慢性化すると重い症状が続きます。
吸虫の種類と、その成虫が最終的に寄生する内臓の各部位により、症状は以下のように異なります。

肝吸虫、タイ肝吸虫

細胆管に寄生し、肝管の周囲の炎症や線維化を引き起こします。最終的に胆管がんへと進行することがあります。

肝蛭

肝蛭は胆管の広い部位や胆嚢に寄生し、炎症や線維化、閉塞、疝痛、黄疸の原因となります。肝線維化や貧血も頻繁に発症します。

肺吸虫

肺組織に寄生します。症状は、血痰、胸の痛み、呼吸困難や発熱などがあり、結核と誤診されることがあります。この吸虫は本来の寄生場所とは異なった場所で、発育、成熟する(異所寄生)ことがあり、特に脳に寄生した場合にはもっとも深刻な状態(頭痛、けいれん、麻痺など脳腫瘍に似た状態)を引き起こします。

治療方法

治療には吸虫駆除薬を使用します。吸虫の種類によって薬剤を使い分けます。

肝吸虫、タイ肝吸虫

プラジカンテル

肝蛭

トリクラベンダゾール

肺吸虫

プラジカンテルとトリクラベンダゾールの二剤併用

予防方法

魚や甲殻類は加熱して食べるなど、食の安全に留意することが重要です。また、感染者が多い地域では、感染後に使用する駆虫薬を予防薬として使用することもできます。肝吸虫症とタイ肝吸虫症にはプラジカンテル、肝蛭症と肺吸虫症にはトリクラベンダゾールが予防薬として対象地域全域に使われることがあります。

感染リスクのある地域

現在までに世界70カ国以上で感染の報告がありました。特に、東南アジア、南米がもっとも流行している地域です。この寄生虫症は、人々の食習慣や調理方法、中間宿主の生息状況などにより、同一国内でも地域により感染状況が異なっています。

推定感染者数

2005年には世界で5600万人以上が食物媒介吸虫類感染症に感染していました。2015年には、60万人が治療を受けています。

推定死亡者数

2005年には世界で7000人以上が死亡しています。

参照情報:

WHO- Neglected Tropical Diseases, accessed March 19, 2014,
http://www.who.int/neglected_diseases/mediacentre/factsheet/en/

CDC- Neglected Tropical Diseases, accessed March 19, 2014,
http://www.cdc.gov/globalhealth/ntd/diseases/

監修
慶應義塾大学 名誉教授 竹内 勤
聖路加国際大学 名誉教授 遠藤 弘良