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社会問題でもある 顧みられない熱帯病について

リンパ系フィラリア症

<象皮病を発症した患者の様子> CDC

フィラリアという寄生蠕虫(ぜんちゅう)を病原体とし、蚊に媒介されて人に感染する病気です。感染するとリンパ系に大きなダメージを与え、足が象のように大きく腫れる象皮病などの身体障害を発症することがあります。リンパ系フィラリア症は熱帯・亜熱帯の73カ国で1億2千万人以上が感染していると言われています。

感染原因

病原体

寄生蠕虫のフィラリア
(バンクロフト糸状虫、マレー糸状虫、チモール糸状虫)

<バンクロフト糸状虫ミクロフィラリアの顕微鏡写真> CDC

媒介昆虫

主に蚊
(ハマダラカ属、イエカ属、ヤブカ属など)

<ネッタイイエカ>
James Gathany
CDC

 リンパ系フィラリア症は、小さな寄生虫が蚊に媒介されて人のリンパ系に寄生することで発症します。原因となる寄生虫は3種類ありますが、リンパ系フィラリア症の90~95%がバンクロフト糸状虫の感染によって引き起こされると言われています。
 フィラリアの幼虫を体内に持つ蚊が人を刺すと、蚊の体内の幼虫が人体内に侵入します。これにより人に感染します。その後、仔虫を持つ幼虫は人のリンパ管に移動して成虫となり、リンパ系に大きなダメージを与えます。成虫は人の体内で何千匹というミクロフィラリアと呼ばれる仔虫を生み出します。そして感染した人を蚊が吸血することで蚊の体内にミクロフィラリアが取り込まれ、さらに感染が広がるといったサイクルを生み出します。感染者の多くは子供時代に感染して、大人になってから発症する傾向にあります。

感染経路

参照情報:
U.S. Centers for Disease Control and Prevention,
"Parasites - Lymphatic Filariasis." Accessed March 19, 2014,
http://www.cdc.gov/parasites/lymphaticfilariasis/biology_w_bancrofti.html

症状

 感染すると、急性期の症状として悪寒戦慄を伴う発熱があります。しかし、感染初期はあまり症状がないため、多くの人は感染に気付きません。その後、成人になってから、リンパ管炎、リンパ節炎を伴う発熱を繰り返すうちにリンパ液の還流障害をきたすようになります。そして、リンパ浮腫、象皮病、生殖器の浮腫といった諸症状を発症します。

<象皮病を発症した患者の様子> CDC

リンパ浮腫

 リンパ浮腫は主に足に起こりますが、腕、胸、生殖器にも起こることがあります。リンパ機能が低下することでほかのバクテリアに感染しやすくなり、やがて象皮病へと進行します。

 
象皮病

 痛みが強く、熱や悪寒があり、リンパ浮腫が急激に進行して体の外観を大きく損ないます。

 

治療方法

診断方法

 リンパ系フィラリア症の感染の診断方法には、2つの方法があります。
 一つは、顕微鏡で血液中のミクロフィラリアの存在有無を確認することです。ミクロフィラリアは、一般には夜間に末梢血管に移動する習性があるため、採血はこの出現時間に合わせて行う必要があります。
 もう一つは血清検査(血清中の抗体値を調べる)です。いずれの検査でも、感染後何年も経ってリンパ浮腫を発症した人でも陰性となるケースが少なくないため、診断は困難をきわめます。

 
治療方法

 治療薬・駆虫薬には、ジエチルカルバマジン(DEC)、アルベンダゾール、イベルメクチンがあり、それらの投薬で治療を行います。この中で、ミクロフィラリアおよび成虫ともに有効で、副作用が少ない薬はDECです。
 また、リンパ浮腫や象皮病はフィラリアを駆除した後も肥大しつづけることがあります。悪化させないための基本対策として、患部を衛生的に保つことや、リンパ液の流れを改善するために運動を行うことなどがあります。

 

予防方法

 リンパ系フィラリア症の予防対策としてもっとも重要なのは、蚊に刺されないようにすることです。長そで、長ズボンを着用し、露出した肌には防蚊剤を塗布することが必要です。また、睡眠時には蚊帳を使用することも有効です。一旦リンパ系フィラリア症にかかると、免疫機能の低下によりほかの感染症にもかかりやすくなるため、衛生的な生活環境を整えることも重要です。
 WHOは、リンパ系フィラリア症の蔓延を防ぐために、DECとアルベンダゾールの2剤、または、アルベンダゾールとイベルメクチンの2剤を年1回、4~6年間継続して感染地域で集団投薬を行うことを推奨しています。蚊の媒介によって人から人へ感染するため、コミュニティ全体で制圧する必要があるためです。

感染リスクのある地域

 リンパ系フィラリア症は、アジア、アフリカ、西太平洋、カリブ海と南アメリカの一部の熱帯・亜熱帯に属する地域にまたがる73カ国で見られます。感染者の約65%が東南アジアに集中しています。そして、30%がアフリカ、残りは他の熱帯・亜熱帯地域に分布しています。

感染リスクのある地域

推定感染者数

 2016年WHOが発表したデータによれば、世界の54カ国で9.4億人以上がリンパ系フィラリア症の感染リスクにさらされており、2000年には、1.2億人が感染していたと推定されています。

推定死亡者数

 リンパ系フィラリア症で死亡する例はほとんどありませんが、免疫力が低下するためほかの病気を発症しやすくなることがあります。

製薬会社・NGOなどの取り組み事例

 リンパ系フィラリア症の制圧の要求は、1997年のWHO(世界保健機関)総会で初めて決議されました。これを受けて、1999年にWHOによる西太平洋地域のリンパ系フィラリア症制圧プログラム(PACELF:Pacific Programme for the Elimination of Lymphatic Filariasis 太平洋22カ国で2010年までにフィラリア症を制圧しようという目標)が発足しました。
 さらに2000年には、リンパ系フィラリア症を2020年までに制圧することをめざし、リンパ系フィラリア症制圧世界グローバルプログラム(GPELF:Global Programme to Eliminate Lymphatic Filariasis)がスタートしました。
 2012年1月には、世界の製薬会社や保健機関などが、リンパ系フィラリア症をはじめとする顧みられない熱帯病を2020年までに制圧することを目標とする共同声明(ロンドン宣言)を発表し、各団体がその目標に向けて邁進しています。このような背景のもと、2013年時点で、リンパ系フィラリア症の制圧をめざし、下記の製薬会社がWHOとパートナーシップを組んでいます。代表的事例を示します。

GAELF(Global Alliance to Eliminate Lymphatic Filariasis、フィラリア制圧世界連盟)

 WHOやリンパ系フィラリア症の治療薬の寄付・提供を行っている製薬会社(グラクソ・スミスクライン(GSK)、米国メルク社(MSD)、エーザイ、他)などがパートナーとして参加している、リンパ系フィアリア症制圧のための官民パートナーシップです。リンパ系フィラリア症がない未来を目標に掲げ、それぞれが資金や専門知識などを提供しています。

エーザイ

 顧みられない熱帯病の制圧をめざす「ロンドン宣言」のもと、2013年よりDECを製造し、WHOを通じて蔓延国に無償提供しています。2020年までに、22億錠を世界26カ国、2.5億人の人々に届ける予定です(2013年10月時点の提供予定国数)。

グラクソ・スミスクライン(GSK)

 1998年、GSK社は公衆衛生問題の一つとしてリンパ系フィラリア症の世界的制圧まで無期限でアルベンダゾールを、WHOを通じて蔓延国に無償提供することを決めました。2010年には学童の土壌伝播寄生虫症感染防止のために、WHOへのコミットメントを拡大し、毎年最大4億錠のアルベンダゾールを追加で提供することを決めました。これら二つの疾病と闘うために、GSK社はリンパ系フィラリア症制圧用に61カ国、土壌伝播寄生虫駆虫用に55カ国に、計50億錠以上の無償提供を行っています。

米国メルク社(MSD)

 1998年、MSD社は河川盲目症とリンパ系フィラリア症の二つの病気が重複して蔓延しているアフリカの国々へのメクチザン®(イベルメクチン)の無償提供プログラムを拡大しました。 このコミットメントを通して、リンパ系フィラリア症制圧まで無期限で、直接対象国にイベルメクチンの無償提供を続けています(メクチザン®は河川盲目症および、リンパ系フィラリア症と河川盲目症が併発した国々を対象に提供しています)。1998年以来、MSDはアフリカ諸国やイエメンのリンパ系フィラリア症蔓延国に9億人の治療を可能にするメクチザン®を無償提供しました。

ジョンソン・エンド・ジョンソン

 2012年、ジョンソン・エンド・ジョンソンは抗マクロフィラリア作用薬の開発に向けて、フルベンダゾールの剤形変更、前臨床試験ならびに臨床試験へ取り組むことを表明しました。フルベンダゾールは当初、ヤンセン・ファーマシューティカにより動物用の駆虫薬として創薬されましたが、新しく改良した剤形は河川盲目症およびリンパ系フィラリア症の原因となる、フィラリア成虫の駆虫薬として効果があると見込まれています。前臨床開発が成功した場合、ジョンソン・エンド・ジョンソンはこれらの顧みられない病気への治療薬として薬事承認申請を行います。

参照情報
WHO- Neglected Tropical Diseases, accessed March 19, 2014,
http://www.who.int/neglected_diseases/mediacentre/factsheet/en/
CDC- Neglected Tropical Diseases, accessed March 19, 2014,
http://www.cdc.gov/globalhealth/ntd/diseases/