AccessToMedicines

Eisai ATM Navigator 世界中で、健康をもっと近くに。

Japanese / English
AccessToMedicines
Japanese / English

Eisai ATM Navigator 世界中で、健康をもっと近くに。

社会問題でもある 顧みられない熱帯病について

アフリカ睡眠病

<アフリカ睡眠病患者の様子> CDC

ブルーストリパノソーマという寄生原虫種に属する2つの亜種を病原体とし、ツェツェバエに媒介されて人に感染する寄生虫症です。病状が進行すると髄膜脳炎を起こし、最終的には昏睡状態に陥って死に至ることから「アフリカ睡眠病」とも呼ばれています。感染リスクを抱える人々はサハラ以南のアフリカ36カ国で6000〜7000万人と推定されます

感染原因

病原体

寄生原虫のブルーストリパノソーマに属する2亜種の原虫

<寄生原虫 ブルーストリパノソーマの顕微鏡写真> CDC

媒介昆虫

ツェツェバエ

 ツェツェバエが媒介昆虫となり、寄生原虫ブルーストリパノソーマ種に属する2亜種の原虫に人や動物が感染します。ごくまれに母子感染、血液感染や性交による感染も見られます。
 原因となる原虫にはガンビアトリパノソーマとローデシアトリパノソーマの2種類があり、それぞれの生息地にちなんで、「西アフリカ睡眠病」と「東アフリカ睡眠病」という異なる病名がつけられています。なお、西アフリカ睡眠病は主に人に、東アフリカ睡眠病は主に野生動物や畜牛に発生します。

症状

 初期は発熱、頭痛、筋肉痛や関節痛などの比較的軽い症状ですが、感染が中枢神経に達すると、錯乱やけいれん発作、歩行困難などの症状が現れます。治療せず放置すると昏睡におちいり数カ月から数年で死に至ります。
 西アフリカ睡眠病と東アフリカ睡眠病では、下記のように異なる症状が現れます。また、一度感染しても感染を繰り返すことがあります。

<アフリカ睡眠病患者の様子> CDC

西アフリカ睡眠病

 アフリカ睡眠病の98%は西アフリカ睡眠病です。初期はリンパ筋腫脹、頭痛、発熱、筋肉腫脹など、アフリカ睡眠病と特定できるような症状はほぼ現れませんが、病状が中枢に達すると特有の症状(人格変化、錯乱やけいれん状態)が現れます。治療せず放置すると3年以内に死亡する可能性があります。

 
東アフリカ睡眠病

 東アフリカ睡眠病はアフリカ睡眠病の2%以下の割合で、一般には急性に経過し、感染後数週間程度で症状が現れます。中には、ツェツェバエに吸血された局所の硬直、腫脹を発する場合もあります(これをchancreといいます)。早期に治療を開始しなければ、感染後数週間で中枢神経まで侵入していきます。そのまま放置すると数カ月で死亡します。

 

治療方法

診断方法

 西アフリカ睡眠病、東アフリカ睡眠病ともに、まずは血液検査などを行います。顕微鏡で病原体の有無を確認しますが、西アフリカ睡眠病の場合は寄生原虫の数が少なく、わかりにくいため、主に後頚部の腫れたリンパ節のリンパ液検査などが必要となります。原虫の中枢神経への浸入の有無によって適切な治療薬の選択が異なるため、アフリカ睡眠病と診断されたすべての患者は、脳脊髄液の検査を行います。

 
治療方法

西アフリカ睡眠病

第一期の治療

 ペンダミジンの静脈注射、または、筋肉注射をします。また、スラミンも効果がありますが、河川盲目症を併発している場合には重篤な副作用を生じる可能性があるため通常は使用しません。

第二期(中枢神経系の障害がある場合)の治療

 西アフリカ睡眠病に対しては症状が進行していても、エフロルニチンを1日4回、2週間静脈注射で投薬します。エフロルニチンは大きな効果が得られますが、アフリカの地方部では医療施設での頻回の治療継続が困難なため、投薬回数を減らしてエフロルニチンとニフルチモクスの併用療法を行う傾向にあります。

東アフリカ睡眠病

第一期の治療

 スラミンを使用します。スラミンの投薬は高い頻度で副作用を起こしますが、その程度は軽く、投薬自体を止めると副作用症状はなくなります。

第二期の治療(中枢神経系の障害がある場合)

 有機ヒ素化合物のメラルソプロールの静脈注射が唯一の有効な薬剤です。ただし、深刻な副作用があり、処方した患者の5〜10%に脳障害が発症し、その半数が死に至ります。この脳障害のリスク軽減のために、プレドニゾロンを投薬することがあります。そのほかにも、発疹、胃腸障害や末梢神経障害など多くの有害事象があるため、メラルソプロールの投薬には注意が必要です。

 

予防方法

 現時点で、予防するためのワクチンや薬剤はありません。従って、ツェツェバエとの接触を避けることが重要です。ツェツェバエの特性を踏まえ、明るい色やきわめて濃い色の服を着用しない、ツェツェバエが日中潜伏しているブッシュには立ち入らない、などの予防策があります。

感染リスクのある地域

 西アフリカ睡眠病および東アフリカ睡眠病ともにサハラ以南のアフリカ諸国の農村や草原で感染が報告されています。

西アフリカ睡眠病

 主に中央アフリカが流行地域ですが、西アフリカの一部地域にも少数感染者が散在しており、24カ国で発症が報告されています。とりわけ、コンゴ民主共和国、アンゴラ、スーダン、中央アフリカ共和国、チャド、ウガンダ北部が発症の95%以上に達します。

東アフリカ睡眠病

 アフリカ南部および東部の13カ国で発症しています。とりわけ、ウガンダ、タンザニア、マラウィ、ザンビアの4カ国が発症の95%以上に達します。

推定感染者数

 2012年のアフリカ睡眠病の新しい発症者は約7000人でした。近年では新患者の報告数は年々大きく低下しています。アフリカ睡眠病の感染リスクにある人々はサハラ以南のアフリカ36カ国で約6000万人だと推定されます。

推定死亡者数

 アフリカ睡眠病は未治療であればほぼ100%死に至ります。年間5〜50万人が死亡していると推定されています。

製薬会社・NGOなどの取り組み事例

 1920年代に、感染リスクのある人々に対する、移動チームによる対策で一定の成果を収め、1960年代半ばには、アフリカ睡眠病はほぼ消滅したと思われていました。その後、この30年間で再び感染者が報告されるようになり、1990年代にWHO(世界保健機関)、各国政府、二国間協力および様々なNGOとの協力のもと、再度対策がとられました。この成果として、2009年には過去50年間で初めて新患者の報告数が1万人未満になりました。さらに、2015年には新規報告数は2804例になりました。
 2009年にWHOは検体バンクを創設し、診断薬の研究に貢献しています。このバンクには、研究に必要な感染患者および感染地域に住む未感染者から採取した血液、血清、脳脊髄液、唾液、尿が保管されています。WHOは2020年までにアフリカ睡眠病を制圧することを目標に掲げています。

サノフィ

 アフリカ睡眠病という命に関わる疾病で苦しむ患者に必要な治療薬を無償で届けるために、2001年にWHOと治療薬と資金援助の提供についての5年間のパートナーシップ契約に合意し、2006年と2011年に契約内容を更新しました。このパートナーシップを通して、2001年以来2700万人の人々が睡眠病の診断を受け、17万5千人以上の患者様が治療を受けました。2015年時点で、サノフィはペンタミジン、メラルソプロールおよびエフロルニチンの無償提供を2020年まで継続して行なうことを約束しています。薬が確実に患者の手元に届けられるよう、輸送面でもサポートをしています。
 また、サノフィとDNDi(Drugs for Neglected Diseases initiative: 顧みられない病気のための新薬イニシアティブ)は、アフリカ睡眠病へのさらなる支援対策として、共同で新規の経口薬、フェキシニダゾールを開発しています。

バイエル

 2016年まで、WHOを通じてペンタミジンを寄付します。また、スラミンとニフルチモクスについても2020年まで無償提供することを約束しています。

サノフィ、アッヴィ(アボット)、ファイザー、グラクソ・スミスクライン(GSK)、MSD、他

 アフリカ睡眠病の新薬開発を目指してDNDiとパートナーシップを組み、各社が持つ化合物ライブラリー(新薬の研究開発のために収集・作成した膨大な数の化合物のラインアップのこと)をDNDiに提供しています。

 

知っていると一目置かれる!? アフリカ睡眠病

シマウマはなぜ”シマ”ウマになったのか?
 シマウマの全身はなぜ、きれいな“シマ”の模様になったのでしょうか?
 実は、120年以上もの間、多くの生物学者たちがこの研究や論争を続けてきました。例えば、「サバンナで敵から身を守るカモフラージュ」、「体温調整の役目」等々。
 カリフォルニア大学デービス校からの最新の研究*によると、シマウマのシマ模様は、アフリカ睡眠病の病原体を媒介するツエツエバエなどの吸血バエを寄せ付けないために進化して身に着けた可能性が示唆されています。
 アフリカに生息する他のウマ科動物に比べて、シマウマはアフリカ睡眠病にかかりにくいことが知られています。また、シマウマの生息地域とアブ、ツエツエバエの2種の吸血バエの生息地域が地理的に大きく重なっているにも関わらず、ツエツエバエの体内からシマウマ由来の血液はほとんど見つからないことが報告されています。さらに、実験で、吸血バエが均一な色の面には着地するのに対して、縞模様の面は避けることが明らかになりました。
 このように、シマウマはアフリカ睡眠病の感染を避けられるように、進化を経て全身がきれいな“シマ”の模様になった可能性が高いと思われます。

* 参照情報
カリフォルニア大学デービス校HP(2014年11月28日アクセス)
http://www.news.ucdavis.edu/search/news_detail.lasso?id=10879

Tim Caro et al.(2014). The function of zebra stripes. Nature Communications
http://www.nature.com/ncomms/2014/140401/ncomms4535/abs/ncomms4535.html

 

参照情報
WHO- Neglected Tropical Diseases, accessed March 19, 2014,
http://www.who.int/neglected_diseases/mediacentre/factsheet/en/
CDC- Neglected Tropical Diseases, accessed March 19, 2014,
http://www.cdc.gov/globalhealth/ntd/diseases/