世界には、1日1.25ドル以下で生活する最貧困層が2013年時点で約12億人存在し、1日2ドル以下で生活する貧困層と合わせると、約24億人がいまだに貧しい生活を強いられています。その数は、実に世界人口の約3分の1にあたります。これらの人々の多くは、病気になっても適切な医療を受けられず、また必要な医薬品も入手できないため、様々な疾患に苦しめられています。
Bonnie Gillespie, Courtesy of Photoshare
「医薬品アクセス」問題とは、開発途上国や急速な経済成長を続けている新興国を中心に、貧困や医療制度の未整備などの事情により、必要な医薬品や医療サービスが、必要としている人々に届かないことをいいます。
医薬品は、地球規模で健康水準の向上や格差の是正をめざす「グローバルヘルス(STUDY MEMO参照)」実現のために重要な役割を果たしています。そして、医薬品を必要とする患者の手元に確実に届けるためには、高品質で安全な製品を円滑に流通させ、適正な使用を促す仕組みが必要です。また、医療施設や保険制度などの基本的なインフラ整備もきわめて重要です。医薬品アクセス改善のためには、医薬品の「購入のしやすさ」「入手の機会」「(患者の)服用の意向」と、それを支える医療インフラの改善が必要であり、これらを包括的に実現するためには、官民学が連携したアプローチが必要不可欠と言われています(下図参照)。
医薬品アクセスを改善させるためには、その基盤となる「医療インフラ」、医薬品の「購入のしやすさ」「入手の機会」「(患者の)服用の意向」それぞれの向上をはかることが必要不可欠です。
参照情報 :
Laura J. Frost & Michael R. Reich, Access, Harvard Center for Population and Development Studies, 2008.
各国 の社会、経済、医療環境に応じた費用で治療を受けられ、医薬品を購入できること。
病院や薬局が近隣に設けられ、必要な医薬品が当該国で認可されていることなど、医薬品を入手できる機会があること。
患者が薬による治療方法や副作用などを正しく理解し、それを納得した上で、自ら服用する意思を持つこと。
上の3つのAを実現するための基盤となる戦略・仕組み(保険制度等の医療インフラや医療従事者等の教育システム)を作ること。
医薬品アクセスの問題は、一企業や一国の政府だけで解決することは困難です。政府、製薬企業、国際機関、非営利団体(NPO)などが、パートナーシップを通して問題解決に継続的に取り組んでいます。この連携のためには、下の「3つのD」が重要だと言われています。
開発途上国でいまだに有効な治療法がない疾患の治療法や医薬品の研究を行い、シーズを見つけ出すこと。
発見された医薬品や診断法の実用化に向けて開発や承認申請を行うこと。
開発された医薬品や診断法を市場に届け、患者の使用を促進させること。
地球規模での「保健医療問題」および、その解決方法を探ることを指します。開発途上国、先進国を問わず、国境を越えて健康格差を改めようとする考え方です。グローバルヘルス問題は多岐にわたり、きわめて大きな問題として、以下のようなものが挙げられます。
開発途上国では、貧困や医療体制の不備などから妊産婦や乳幼児の死亡率が非常に高く、大きな問題となっています。これは開発途上国での平均寿命の低さの原因でもあり、早急に解決すべき課題の一つです。2000年に21世紀の国際社会の目標として設定された「国際ミレニアム開発目標(以下MDGs)」では、乳幼児および妊産婦の死亡率の削減などが目標に掲げられています。
「世界食料不安白書(国連食糧農業機関)」によると、2008年時点で、世界人口の約8人に1人が、慢性的な栄養不足状態にあると推定されています。栄養不足人口の大半は開発途上国の人々で、サハラ以南アフリカ諸国では、いまだに栄養不足人口が増加しつづけています。栄養不足が原因で5歳未満の1億人以上の子供が低体重児となり、毎年250万人が死亡していると言われています。MDGsでは、2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を、1990年の半数に減少させる、という目標が掲げられています。
開発途上国や新興国では、いまだに医療保険制度が整っていない地域が多く、たとえ保険制度が整備されていても、その加入者数は先進国と比較して少なく、保険で保証される内容も非常に限られています。そのため、それらの国々では医療費の自己負担比率が高くなり、治療を受けられない人々が数多く存在します。また、都市と地方の医療施設やサービスの格差なども大きな問題となっています(下図参照)。医療や医薬品へのアクセスを改善することは、地球規模での緊急課題となっているのです。
国が国民に対して必要な医療を提供する制度を医療保障制度といいます。下図は、各国の保障制度の対象と、低所得者層への対応、および各国の医療問題をまとめたものです。
医療保障制度の対象 | 低所得者への保障 | その他の医療問題 | |
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国が国民に対して必要な医療を提供する制度を医療保障制度といいます。下図は、各国の保障制度の対象と、低所得者層への対応、および各国の医療問題をまとめたものです。
多くの開発途上国や新興国では、三大感染症と言われるマラリア、HIV/AIDS、結核(上述STUDY MEMO参照)以外にも、様々な疾患が深刻な社会問題になっています。中でも経済的損失の上で深刻なのが、「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases 以下NTDs)」です。
NTDsは世界149の国や地域で蔓延しており、約10億人が感染していると推定されています。これらの疾患による経済的損失は巨額で、たとえば「失明に至るトラコーマ」では年間2000億円以上、「リンパ系フィラリア症」では年間2000億円以上、「シャーガス病」では年間1000億円以上の損失額があると推定されています。
これらの疾患が蔓延する背景には貧困が大きく関わっていますが、貧困により感染が蔓延する一方で、感染者の増加によりさらなる貧困に陥るという「負」のスパイラルを生み出します。つまり、患者の多くが各疾患の症状や後遺症で働くことができなくなり、重度な場合は死に至るため、各国の労働力や生産性の低下を招きます。医薬品アクセスを改善し、こうした疾患に対して効果的な対策をとることは、長期的な視点で見れば各国の貧困撲滅や経済成長にもつながるのです(下図参照)。